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366 :転載:2010/08/14(土) 22 41 16 ID uPkb+fr5 49 名前: 風雪 3話 ◆ f7vqmWFAqQ 2010/08/14(土) 22 33 25 ID qybzXf/Y0 この世は無限の可能性で出来ている。 そう、どんなにエキセントリックな出来事でも、起きる事はある。 例えば、教室に謎の組織が乱入するとか、そんな男子中学生の妄想みたいな出来事でもだ。 はたまた、朝起きたら自分が醜い虫に変身していた…とか。 そう、こんな非日常過ぎる出来事があるんだ! だから、いじめっ子にパシられて代理告白をして、その告白の効果が自分に帰属するなんてよくある話… 「な訳あるかッ!!!!!」 「…どうした?」隣の女性がこちらの顔を覗きこんで訝しんできた。 いや、はい、あの、どうしたらいいんですかね、僕。いっそ逃げたい。 ただいま夕方。僕は今日の朝に告白の代理を押し付けられた。 そして、何故か僕が、現在進行形で隣を歩く双葉宮風子と交際する事になってしまった。 「なあ、雪斗」 おいおいおい、よく考えたら明日、広瀬に殺されかねないって。 「おーい、雪斗」 どうすっかなぁ、どうすっかなぁ。 今更「実はあの告白は代理告白で、僕の気持ちじゃ無いんです☆てへッ」なんて言うしかないよなぁ。 「どうしたんだー?」 でも、お互いの為にならないんだよな。こういうの。正直に言うべきなんだよ。 「…?」 でも、結果的に傷つける訳だしなぁ…。 「おい!」 「ウがっ!」額に衝撃が走る。正面を見ると、デコピンを撃った後の状態の右手と背の高い彼女が居た。 どうやら、デコピンを食らったようだ。地味に痛い。同時に目も覚める。 「えっ、あ、何ですか?」 「あーいや、話掛けてもボーっとしてたから、つい、ね。」 「すいません。」とりあえず、平謝りをかましてみた。 「まあ、いいんだ。許す代わりにだ、その、今度の日曜日、デートに行くぞ!」 「デート、ですか。」 思考再開。このままの関係を惰性で続けて意味があるんだろうか。 そもそも、デートって何処行きゃ良いんだよ。童貞に分かる訳ねーだろ! 「何か予定でもあるのか?」 「あー、いや、えっと」 言おう!あの告白は僕の意思じゃないって事を。 367 :転載:2010/08/14(土) 22 41 39 ID uPkb+fr5 50 名前: 風雪 3話 ◆ f7vqmWFAqQ 2010/08/14(土) 22 33 50 ID qybzXf/Y0 「えっとで…フがっ」何かにぶつかった。幸い、電柱の様な固い物では無かったが。 だが、ぶつかった対象物を見ると、幸いでも無かったが。 「ンダコラ!テメェ!前見て歩けゴラァ!」パターン青、不良グループです。 つーか、なんだこの不良。ステレオタイプ過ぎる…。腰パンに学ランにリーゼントって…昭和時代ですか、この野郎。 しかも、他の2人もステレオタイプ…なんて口には出せなかった。とりあえず平謝りをかまそう。 「す…すいません…」 「アァ!?聞こえねーぞ!あ!?」 タチ悪いな畜生! 「しかも彼女連れか、優雅だなテメェ!ウゼーな!」 すいません。僕は望んでないのに交際まで嗅ぎつけました。 大体なぁ、彼女欲しいなら作る努力しやがれ!ねだるな、勝ち取れ!それが人生のルールだろうが! 「おい!おめーら!こいつボコって、そこの女まわそうぜ!」 後ろの2人は、そのリーダー格っぽい男の提案に乗ったようで、気色の悪い歪んだ微笑みを見せてきた。 マズい!逃げよう!そう思って先輩の手を握って逃げるつもりだった。 しかし、儚くもその即席の計画は失敗した。 手を握る前に、頬をぶん殴られて吹っ飛ぶ。 柵に背中をぶつけて激痛が走る。背中と頬の痛みがデコピンの比じゃない。 くそ、先輩だけでも…守らないと。ここで「僕にかまわず逃げて!」とか言ってみたい。 死亡フラグだけど、人生で一度は言ってみたいんだよね。 「先輩、逃…げ…て…」 驚くべき光景が、僕の目に映った。 先輩がリーダー格の男を締めあげている。 地べたには、他2名が顔を腫らして、這いつくばっていた。 「暴力は嫌いだから平和的に解決しようと思ったが、話し合いでは解決できないみたいだな。」 「「ヒ、ヒイイイイ!」」 あ、リーダー格の男を残して、同級生らしき2名が逃げた。 「ちょ…おま…!!おい!!」 「で、どうする?お前もこの場から立ち去るか?」 「は、ハヒィ!も、もういちゃもん付けませんから!許して下さいッ!!」 先輩の手が不良を放す。不良は尻もちをついた後、脱兎の如く逃げだした。 かわいそうに…全治何週間するんだろう…。ご愁傷様です不良君。 368 :転載:2010/08/14(土) 22 42 02 ID uPkb+fr5 51 名前: 風雪 3話 ◆ f7vqmWFAqQ 2010/08/14(土) 22 34 11 ID qybzXf/Y0 先輩がこちらに近づいてくる。 「大丈夫か?」 先輩の手が、殴られた僕の頬に触れた。 「こんな真珠の様な肌に傷を…。あいつらにはもっと制裁を加えても良かったな…」 「大丈夫です。なので頬をぷにぷにしないで下さい…」あと、後半の台詞、冗談でも笑えない。 「しかし、君の頬は綺麗で、それでいてぷにぷにして気持ちいいな!女としては羨ましい限りだ。」 「そりゃ…どーも。」不覚にも照れる。 しかし、『実はあの告白は代理告白で、僕の気持ちじゃ無いんです☆てへッ』なんて言ったら殺されかねないという事が分かった。 先輩が僕の頬から手を離して、その手を差し伸べる。 その手を掴んで先輩に起こして貰って、2本の足だけで立っている状態に戻る。 「でさ、デートの件なんだが…」 「ニチヨウビデスヨネ!マカセテクダサイヨ!」 「な、なんだ急に?まあ、楽しみにしてるよ!」 「アハハハハ、ボクモタノシミダナー!」 背中が冷や汗でべったりだった。 ◆ 尾行していたら、有力情報をゲットした。 雪斗と双葉宮が日曜日にデートすることが分かったのだ。 さて、尾行してやろうっと。
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作者:◆EHFtm42Ck2 【1】 【2】 【3】 【4】 【5】 【6】 【7】 【8】 【9】 【10】 【11】 【12】 【13】 【14】【15】【16】【17】【18】 それからの道のりは、いたく平坦ですこぶる順調だった。正確には階段を上がっているわけで平坦ではないのだが、 それは言葉のアヤというもので、ツッコまずにスルーするのが大人の対応というものだろう。 2階から3階へ上がったところで複数のキメラの待ち伏せを受けたが、私の心強いバディ達(少し気に入ってしまった) が早業で葬ってしまい、そのまま4階へ。 そして現在は、屋上へ続く階段を探して4階をさ迷っているところである。そう、学校の屋上というのは概してレアな 場所なのだ。建物に階段はいくつもあるというのに、屋上へ繋がる階段は1、2か所しかないなんてのはよくある話だ。 私の通った中学高校も例に漏れずそんな構造になっていた。 とまあこんなどうでもいいことをつらつらと解説しつつ歩けるほど、二人の仲間が脇を固めてくれている安心感は 大きいわけである。こんなことを言っている間にも、窓を割って侵入してきたキメラ(猿のような姿だが)が3匹、あっと 言う間に血祭りに上がっていた。 「ねぇシルスクさん? 私こんな姿のキメラって初めて見たんだけど」 「あ? ああ、このゴリ猿な。こいつらはキメラとは別物だ。造られ方からして違うはずだ」 「あらそうなの? どう違うのかしら」 「フン、知ってどうする。説明するのもめんどくさい。適当に想像するなりしてろ」 「ドクトルJ~、シルスクさんが冷たーい」 と乙女の声で言いながらアヤメさんがトタトタと駆けよってくる。もとのキャラがキャラなので逆に恐怖だ。いい感じに あしらっておこう。 「ああ、ほら。シルスクさんはツンデレなんだよきっと」 「ということは、そのうちデレるのかしら?」 「たぶん、ね」 少し先を歩いているシルスクの背中が微妙に殺気立った気もするが、気付かないふりでいるのがお互いの幸せのためか もしれない。と思ったのだが。 「おい、ドクトルJ」 怖い顔で振り向かれてしまった。殴られるのだろうか。グーで殴られるのだろうか。いやしかしツンデレと言われたくら いでそこまでカチンとく―― 「階段だ。屋上に出られるぞ」 シルスクの指さした先には、確かに階段があった。その階段の突きあたりには、少し重そうな金属製のドア。間違いなく 屋上へ続く扉だろう。 この扉の向こうに、彼はいる。私を待っている。10年間の苦しみに終わりをもたらすそのために。 私もまた、そのために今日ここまでやって来た。辛い道のり……というほど辛い道のりではなかったが、それは隣の二人 の力があったからこそ。私一人では、命をいくつ失ってもここにはたどり着けなかったことだろう。 ここにたどり着いて、今更思う。私はどんな決着を思い描いて、ここにいるのだろうか。私の望む理想の終わり方とは どんな形なのだろうか。なんたる無思慮と罵られるかもしれないが、そんなものには考えも至らなかった。ただ彼をどうに かしなければ。私への復讐心のみで生きているようなあの男をなんとかしてやらなければ。その思いだけでここに来たのだ。 わからない。どんな終わりが理想なのか。求められる決着の着け方とは。わからない。 それでも今、確実にひとつだけ言えることがある。今の私は、どうしようもなく死ぬのが怖い。死にたくない。惜しげも なく危険な能力を濫用していた頃の自分が、遠い過去のことのように。 どうしてこんな気持ちになるのか、それもよくわからない。ただ本当に、私は死ぬわけにはいかないのだと、それだけが はっきりこの心にうぐえへっ!? 「ボケッとしてんなドクトルJ! とんでもないのが来やがった!」 背中、そして直後に体前面まんべんなく鈍い痛みが走り、同時に怒声が聞こえた。どうやらシルスクが私の背中を思いっ きり蹴飛ばしたようだ。倒れ込んだまま振り返って確認すると、それは危機回避のやむを得ない手段であり、シルスクなり の優しさだったことを悟った。 それは一見して黒豹のようだった。だがご多分に漏れず体中の筋肉は異常に発達。バイソンのような体格になっているが、 それでいてしなやかさも失われていない。並のキメラやケルベロスですら赤ん坊に見えるレベルの危険さを全身から発散 させる異形の怪物がそこにいた。 「ドクトルJ! こいつはさすがにめんどそうだ! 俺とこの殺人鬼でどうにかする! あんたはさっさと上がれ!」 「あらららシルスクさんと私死亡フラグ全開。巻き込まないでもらえます?」 「黙れ殺人鬼俺だってほんとならこっちから願い下げだ! だがこいつは一人じゃ無理だ! 元が黒豹だぞってよっと!」 まるで協力関係を築けていない中、黒豹の俊敏な飛びかかりをこれまた俊敏な身のこなしで回避するシルスク。黒豹の 飛びかかりを回避できる人間が知り合いにいることに驚きを隠せないよ私は。 「驚きの表情を隠せない人がギャラリーにいるのはテンション上がるけど……ドクトルJ、ここは素直に上がった方がよくっ てよ」 「ほら、殺人鬼もこう言ってる! さっさと行け! どうせ俺の用事はあんたの後なんだ! 一緒に行ったって暇するんだよ!」 黒豹を射殺す眼光で見据えたまま、シルスクは促してくる。目で会話はできなかった。 アヤメさんを見ると。こちらを見返して、軽くウィンクをよこしてくれた。それが余裕を演出し、私を安心して先に向かわ せるためのポーズとしての行為だとすれば。 まるで母親か姉のようで、なんとも素敵な女性じゃないか。 黒豹の黒豹らしからぬ野太い咆哮を背中に聞きながら、最後の階段を駆け昇る。重たそうな金属製の扉に手をかける。 まさか鍵がかかっているとかいうオチはないかと内心ヒヤヒヤしていたがそんなこともなく、また見た目ほどの重量感も なく、意外にあっさりとその扉は開いた。 実際には大した時間でもなかったはずだが、随分久しぶりに外に出られたような感覚だった。 濃紫の夜空が広がっていた。少なめの明かりのおかげで、星も綺麗に輝いていた。 少し暑くなりはじめた季節とは言え、この時間になれば涼しさも戻る。風もそよそよと吹いて、心地よい空気。 そんな穏やかな大気の中に、男の背中があった。 1歩、2歩、3歩と。少しずつ彼の元へと向かう。相変わらず何かを錯誤したような黒ずくめのその背中は、残念ながら 私へと何一つ語りかけてはこなかった。だから私から、その背中へと声をかける。 「約束通り来たぞ。牧島」 「ああ。思ったよりは早かったな」 「仲間がいたからな。でもここにたどり着いて思ったよ」 彼は振り返らない。背を向けたまま、だがしっかりと会話にはなっている。だから私はそのままで続けることにした。 「君はもともと私がちゃんとここにたどり着けるようにするつもりだったんだろう? 途中でわけのわからん死に方は しないように。私の死にざまを見届ける、あるいはその手で私に止めを刺す。それが君の望む終わりの形だろうからね」 そうなのだ。冷静に考えればそのはずなのだ。私への復讐心で動いている彼が、その復讐を最初から最後まで使いっ走り のキメラたちにやらせるはずはないだろう。私の負傷具合には幅があったかもしれないが、少なくとも彼は私の命が欲しい わけで、死体が欲しいわけではないのだ。 それが的を射ているのかどうかは定かではない。彼の背中からはなんの言葉も返ってこなかった。代わりに別の問いが 飛んできた。 「比留間の研究所で、あれを視たんだろ?」 核心だ。だがそうだ。今日この日のことなんてどうだっていい。彼の思惑いかんにかかわらず、私はこうしてここまで 来られたのだ。重要なのは今日なんていう一日のことではない。その一日を幾度も繰り返した、10年という長い歳月が 育んだ束縛と復讐心の清算こそが目的なのだ。今日という一日は、その10年の中の単なる一日に過ぎない。 ここからの問答は、その清算の仕方を決定づける極めて重要なやり取りになるのだろう。どんな終わりを望み、理想と するか。それすらもあやふやなままで、私は待ったも失敗も許されない背水に立つのだ。 今もまだわからない。どんな結末が。どうして私は死を恐れ出したのか。きっと喉元まで出かかっている答えは、どうし ても喉元から先へと出てこようとはしない。 だから今の私にできることをするだけだ。神宮寺秀祐という人間として、誰にも恥じることのない姿を見せてやるだけだ。 「ああ、視たよ」 「何か感じたことはあるか?」 あの時私が感じたこと。いくつもある。 「たくさんあるとも」 そう。いくつもあるんだ。たくさんあるんだよ。 「言ってみろ」 「ひとつめ。美希はとても賢いのに、肝心なところでおバカだ」 なまじ飲み込みがよくて頭の回転も速いばかりに、自分の身に起きた能力という異変をあっさり受け入れて。あろうこと か私のためにそれを使ったりなんて。そんなことしなければ、今も生きていただろうに。 「……そうだな。姉さんはバカだよ。……まだあるんだろ?」 「ふたつめ。美希はほんとにわがままだ。まあ知ってはいたが」 私を助ける代わりに私の前からいなくなるなんて。それでいてご丁寧に3つも願い事をして私を縛りつけようなんて。 ずるい。本当にずるい。 「……次で最後にしよう」 「わかった。その代わり長くなるぞ」 「好きにしろ。お前の最期の言葉として聞き届けてやるさ」 あくまで背中を向けたまま。それでも牧島は、私のこのもはや誰に話すこともできない亡き妻への思いを、感情を揺る がせることもなく静かに聞いていた。いや、聞いてくれていた。 「みっつめ。美希はバカだし、わがままだ。そうは思っても、愛した女が命を落としてまで自分を助けてくれた。そのこと が嬉しいのも確かだ。あの日消えかけた私の命は、美希の命とひとつになることで蘇った。だからね」 息が詰まった。呼吸することも忘れていた。喉元につっかえていた答えが、見えたような気がした。 「だから私の命の価値は、あの過去を視た時から私の中で大きく変化したんだよ。私は今、死ぬのが恐ろしく怖いんだ。 生物は本能的に死を恐れるというそれ以上に死が怖い。死にたくない。いや、死んではいけないとさえ思う」 牧島の背中が少しだけ、揺らいだように見えた。 「10年前のあの日以来、私は自分の生に価値が見出せなかった。大切なものは全て失ってしまった。正直さっさと死んで しまいたかった。早く妻と娘のところに行きたいとそう思っていた。でもそんな願いは間違っていた」 ああ、そうだ。これが答え。こんなにも簡単で、明確な唯一の答えだ。 「矛盾した願いだった。行けるはずもない。行ったって会えるわけがない。10年前のあの日から、美希の命はずっと 私とともにあるのだから。命に形があるのならば、私の命の半分以上は美希の分で構成されているに違いないさ。非科学だ オカルトだ電波だと笑いたければ笑ってくれて構わない。でも愛する妻が命を以って繋いでくれたこの命だ。無下に捨てる ような真似はもうしない。長くなったが要約すると」 要約するとなんだろうか。私は結局―― 「美希がいない。それだけで私の10年間は本当にからっぽだった。でも真実を知った今は……少しだけ幸せだ。生きていて よかった」 本当に。生きていてよかった。生きている限り、これからもずっとそう思える。生きている限り、美希と一緒なんだと。 「死ぬ間際になって、『生きていてよかった』か。うらやましいことだな」 感傷には浸れない。今度は彼のターンなのだろう。満を持してと言うべきタイミングで、黒い背中が翻った。 「死ぬのが怖くなったか。それはちょうどいい。さぞかし死に物狂いで抵抗してくれるんだろうな」 校舎の下から見上げた時と同様、やはり今日はサングラスをしていない。目元が露わになっていた。暗く沈みこんだような その瞳からは、もう光を感じられなかった。 「お前の言うとおりだ。姉さんは本当にバカだよ。お前なんかを助けて自分はコロリと逝っちまって。そんなバカでもな、 僕にとっては大切な大切なたったひとりの家族だったんだよ! 大好きな大好きな姉さんだったんだよ!」 感情が迸る。姉への想いと私への復讐心と憎悪で煮えたぎる血走った瞳を私に向けて。 彼はこの10年間、こんな目をして過ごしてきたのだろうか。あの黒いサングラスの下に、こんな負の感情で溢れかえる 目をひた隠して生きてきたのだろうか。ここで私への復讐を果たさなければ、彼の10年間は無意味なものになってしまう のだろうか。 「お前のせいで姉さんは死んだよ! お前のせいで! だから僕はお前が憎くて仕方ないんだよ」 言いながら胸元から取り出したのは。まずい。拳銃だ。距離10メートルほど。素人なら外す距離か……? 「さあ神宮寺。死ぬのが怖いんだろ? だったら命乞いでもしてみせろ」 命乞い、か。そうだな。たとえ彼の10年間が意味のないものになったとしても。彼の復讐心を打ち砕いてやる。復讐を 果たさせないまま、その復讐心を叩き潰す。 「牧島。君の復讐は絶対に遂げられない。遂げられるわけがない」 「なんだと」 「さっきも言ったが。美希は命を以って私の命を助けてくれた。今の私の命は美希の命でもある」 「ハッハッ! 非科学だオカルトだ電波だ! 本気で言ってるのか神宮寺」 割と本気だが、ばっさり言われるとそうでしかないのが辛いところだ。だが怯んでもいられない。 「結構本気だけどな。まあいい。あの日美希は私を助けてくれること、自分の命を捨ててでも私の命を繋ぐことを自分で 選んだ。あの日の美希の選択、想い。その結果として今ここにいる私の命を、君は簡単に奪えるのか?」 牧島は無言。たたみかける。 「美希の選択と想いを無下にできるのか? そんな権利が君にあるのか? 君からすれば私はクズなのかもしれないが、美希 にとっては大切な存在だったのかもしれない。そうであれば嬉しいね。あの日の美希の死を、銃弾一発で無駄死ににする気か?」 答えはない。でもその表情にはかすかな揺らぎが見えた。 「もう一度、何度でも言う。君の復讐は絶対に叶わない。君に私は殺せない。君の復讐心が美希への想いに起因するもの である限り、君は絶対に、私を殺せない。ああ、そうだよ。私がずっと矛盾した願いを抱き続けていたように」 君の私に対する復讐心は、その心に芽生えた瞬間から矛盾を孕んでいたんだよ。最後にそう告げた時、銃声が一発響いた。 それは私にかすることもなく、背後の虚空へと吸い込まれていったようだった。 「神宮寺、秀祐……お前は本当に嫌な、憎い男だ。ずるい奴だ」 「ああ、知ってるよ。すまないな。でもそんな男でも、美希は愛してくれたらしい」 きっかり4秒の間の後、牧島は拳銃を静かに、ためらいながらも降ろした。 「僕は、自分が間違っていたとは思わない。姉さんはお前に殺されたも同然だ。だけど……だけどお前の言うこともわか らなくない。オカルト的とは言え、今のお前の命は姉さんが繋いだものだってのは100%疑いようもない」 復讐を遂げさせることなく、復讐心を消す。それで彼の10年間が無意味なものになるかどうかは後ほど考えるとして、 ひとまず無事に終えられた。そう思った。 「僕はこの10年間、いろいろなものを犠牲にした。人間として持っているべきものの多くを捨てた。道徳観念、倫理観 なんてのはもう真っ先にだ。ガーゴイルってのは、その賜物のひとつだよ」 彼の色と光を失った瞳は相変わらずのままだった。それはブラックホールのように、どこまでも落ち沈む黒い穴のようだった。 「それでも結局、このザマだ。感情に訴えかけられてほだされ、理性で制御されちまう。それでもお前が憎いという気持 ちが消えるわけじゃない。殺してやりたいという衝動がおさまるわけじゃない」 言いながら牧島は拳銃を持った右手を――彼のこめかみに押し当てた。途端、心臓の鼓動がバクンと跳ねあがる。 想像しなかったわけじゃない。それでも、こんな光景は見たくなかった。 「やめろ」 それしか言えない。何も浮かばない。語彙のなさが情けない。もっと気の利いたことを言えれば。 「牧島勇希! 銃を降ろせ! 降ろさないと殺すぞ!」 そう、こんな風に……え? 「修羅場を抜けたらまた修羅場っと。お待たせドクトルJ。なんか大変そうねぇ」 「アヤメさん? シルスクさん?」 このタイミングで。グッドなんだかバッドなんだかわからないが。あの黒豹をくぐり抜けてきたのだ。無事再会の喜び に浸りたいが。 「牧島勇希! さっさと銃を捨てろ!」 シルスクが全開すぎて声もかけられない。牧島は牧島で、来訪者には目もくれずずっと私を見つめている。それはそうだ ろう。彼は私の言葉を待っているのだろう。 「牧島。君が死んでどうなる。何か意味があるか?」 ニヤリと。あのいつもの陰湿な笑みを浮かべた。 「いろいろなものを捨ててきたよ。でも結局、このどうしようもなく邪魔な理性を捨てなきゃ、僕の望みは叶わない」 彼の意図が読めない。拳銃で頭を撃ち抜けば死ぬだけだ。理性ではなく物理的に脳みそが吹き飛ぶだけだと―― 甲高く耳をつんざく火薬の音。夜の闇の中に明るく散る火花。噴き出る真っ赤な液体。がくんと膝から崩れ落ちる、その体。 あっさりと。あまりにあっさりと。なんのためらいもなく引き金を引いてしまった。 あまりにあっけなく、彼は死んでしまった。まるで、最初からこうするつもりだったかのように。その覚悟をしてい たかのように。 「チッ、くっそ……やっちまった……まずいなこいつは」 隣で誰かがそんな悪態を吐いていた。ああ、本当に。やってしまったよ。彼が死ぬことを考えなかったわけではなかった。 それでもこうして目の前で死なれてしまっては。だが待て。死んだと決まってはいない。いやほぼ即死だろうが、まだ息が あるかもしれない。そう思って牧島に近づこうした。 「近づくな! というよりさっさとここから離れろ!」 シルスクがそう叫んで静止してきた。それこそまた鬼の形相だ。しかし、一体どういうことだろうか。と、同じ疑問を 持った女性がいたらしい。 「どういうことかしら? シルスクさん」 「説明しなきゃダメなのか!? とにかく早く……ってヤバい!」 鬼の形相から、阿修羅のような形相になるシルスク。その視線の先にあるのは牧島の死体……のはずだったが。 それは動いていた。というよりは蠢いていた、という表現が最適な、気味の悪いぜん動運動を繰り返していた。頭、胴体、 腕、脚。それぞれが別の芋虫のように激しくうねり、原型をとどめないほど変形、肥大が始まっていた。 「なんなんだ、これ……」 「牧島勇希の昼間能力だ。ガーゴイル、強化型キメラ、ケルベロス、さっきのゴリ猿はやつのこの能力で造られたもんだ」 「昼間能力? 今は夜よねぇ」 「うちでつけた能力名は『血中ウィルス』っつってな。血の中に特殊なウィルスを作ってんだ。ウィルスだからしばらく は潜伏期間みたいな感じで残る。だから夜でも有効なんじゃないかというのがうちの専門家の見解だが、よくはわからん」 シルスク、解説ありがとう。わかったようでわからないことも多いが、とりあえず牧島の昼間能力は相当にエグいもの のようだ。そしてそうこうしてる間にも牧島の死体の変異はますます進行、むしろ峠を越えたような雰囲気だった。 「あーあ。もう完成しちまったって感じだな」 シルスクも同じ印象を持ったらしい。全体のグロテスクな蠢動は終わっていた。全身は赤黒く巨大になり、背中にはコウ モリを3倍ぐらい立派で凶悪にしたような翼。それは以前に見たあれよりも数倍は凶悪な、正真正銘の悪魔だった。前回のが デーモンなら、これはアークデーモンとでもいったところか。 強靭に膨れ上がった四肢がのそりと動く。牧島勇希という死者の体を借りて顕現した悪魔が、ゆらりとその脚を大地に つける。つり上がった目。鋭くとがった鼻。大きく裂けた口と、鋭い牙。面影など感じようもなかった。 「どーすんのこれ」 「逃げるが勝ちと行きたいがな。ほっといてもロクなことにならんだろ」 そう言ってシルスクはダガーを両手に構える。アヤメさんも左手に拳銃、右手にナイフの構え。倒すつもりなのだ、あれを。 ただの人間が敵うとは到底思えないあれを。もはや見る影もないが、もとは牧島だったあれを。 『グギャアアァァァアァァァアアァァアアアァァァ!』 と、周囲の音が一切聞こえなくなるほどの悪魔の咆哮。それを合図に、二つの影が動く。悪魔の左右から。腕ではなく 剣へと変型した両腕を、二人ともするりするりと危なげなくかわしながら。かたや銃弾を何発も撃ちこみ、かたやどこから 取り出すのかナイフを目にもとまらぬ早業で次々と投げ込む。 それが以前と同様の出来の悪魔だったならば、あっという間に勝負がついていたのかもしれない。だが今回のが以前より 明らかに手強いだろうことは、見た目の凶悪さの桁違いぶりからもはっきりしていた。こうして手強くなることがわかって いたから、シルスクも牧島が死ぬことを避けようとしていたのだろう。 「表皮が硬すぎる! ナイフが刺さりもしない。俺が武器の手入れ怠ってるみたいじゃねえか」 「銃弾もまるで通らないわねぇ。ロケットランチャーで吹き飛ばすくらいしかなさそうよ」 「んなもん今あるか!」 「じゃお手上げねぇ」 いったん退いた二人のそんなやり取りが聞こえてくる。やはり厳しいようだ。確かに銃弾もナイフも悪魔の足元に転がっ ている。全部弾かれたのだろう。 さまざまなフィクションで、装甲が硬くて容易にダメージが与えられない敵というのは往々にして現れる。そういう敵 が出現した時、取られる対処はどういうものがあるか。 アヤメさんが言ったように、圧倒的な破壊力で装甲もろとも吹き飛ばすのも手段のひとつだ。あるいは何らかの方法で装甲 を弱体化させるのも考えられる。また、さらに別の手としては…… 「中から攻めよう」 二人が私に振り向く気配。意味を測りかねているのだろう。 「私の能力を使って倒す。だがあまりに動かれると使えない。さっきみたいに一定位置から動かないようにさせてくれないか」 シルスクは相変わらずピンと来てなさそうな顔をする中、アヤメさんは理解してくれた。 「あ、そっかぁ。確かにあなたの能力なら外皮の硬さなんて関係ないわねぇ」 「……確実に仕留められるんだろうな?」 「確実とは言いたくないね。8割がた、と思ってほしい」 「……フン。ま、賭けとしちゃ十分だな。とりあえずあいつをあまり動き回らないようにすりゃいいんだなっておいおいおい!」 焦ったような声と同時に、シルスクは駆けだしていた。見れば、悪魔がはばたき、今にも飛び立とうとしている。羽根が あるんだからそりゃ飛ぶのだろうが、動き回らせるなという条件を考えれば最悪の状態だ。 少し遅れて追うアヤメさんが、途中で何かを拾っていた。シルスクが落としたもののようだが、それが何かまでは判別 できない。 十分に揚力を溜めた悪魔が、大地を蹴る。その体が夜空に舞いあがる。まったく同時に、一直線に駆ける弾丸もまた、それ 目がけて大きく跳躍する。どんな攻撃も通さない硬質の皮膚に、臆することなく飛び付き絡みつく。悪魔の上昇は止まらず。 それでも彼は決して離れない。鋭い剣となった両腕の攻撃が届かない安地に潜り込み、悪魔とともに空に昇る。 だかそこからどうするつもりか。もしかして考えなしか。それならそれでまたむしろ男前だが。そう思った矢先。 「そいつを撃ってこい! 狭霧アヤメ!」 指示が飛んだ。見れば、アヤメさんは悪魔に向かって銃らしきものを構えている。さっき拾っていたあれだ。改めて見れば、 それには見覚えがあった。 パシュンと空気漏れのような軽い発砲音。飛びだすのは弾丸ではなく、一本のワイヤー。それは過たず夜空の悪魔へと 伸びていく。そのワイヤーの先端が悪魔の表皮に刺さ……らない。どういう作戦かわからないが、失敗したのか。そう思った。 「よし! もう一度トリガーを引け! さっさと!」 弾かれたワイヤーを、悪魔と空中戦を演じる男がしっかりと掴んでいた。左脚で悪魔の首、右脚で右脇の下をしっかりと ロックし、上半身はフリーという曲芸みたいな格好で。まったく、どういう目と筋力と反射神経をもってすればあんな芸当が できるのかまるでわからない。人体の神秘があそこに極まっている気がする。 そしてさらに状況は動く。シルスクの指示通りに引き金を引いたのだろうアヤメさんもまた、オートで巻き取られるワイヤー に引っ張られる格好で上空に昇る。2人の人並み外れた人間と、1体の元人間だった異形が、星明かりが散らばる夜空で 交差していた。 しかしだ。あそこからどうするつもりか。悪魔は2人を振り落とそうと体を揺らす。あれでは私の能力は使えない。だが あれを地上にひきずり下ろすのはあの2人がかりでも無理だろう。やはり考えなしか。 いや、信じよう。なにせ彼らは2人とも、私の命を助けてくれた恩人なのだ。今日もまた、彼らのおかげで私は無傷でこ こまで来られたのだ。必ず何かやってくれる。 だから私も、遠くで眺めてなんていられない。彼らは余裕そうに見えて、命を落とすかどうかギリギリの死闘を繰り広げ ているのだ。言いだしっぺの私が、止めを刺すはずの私が、安全地帯でボーッとしているのは道理が通らない。 1歩踏み出す。同時に、上空から屋上の床へとワイヤーが伸びてきた。約10秒の間があって2本目が、さらに約10秒 間隔でさらに2本、合計4本のワイヤーが、上空から床へと伸びた。そして声が響いた。 「注文通り、固定してやったからな! あとはあんた次第だ! できるだけ早くケリをつけてくれよ!」 その言葉に上空を見上げれば。4本のワイヤーでがんじがらめになった悪魔は、確かに固定されていた。おそらく2人を 振り落とそうと身を回転させたせいで、むしろ自分でワイヤーを巻き付けた格好になったのだろう。 しかしまさか、空中で固定してしまうとは。シルスクもアヤメさんも、上空にいる間にこの方法を思いついたのだろうか。 上空で悪魔とともにワイヤーに絡め取られて苦しそうな彼らだが、その姿のなんとかっこいいことか。ヒーローとはああいう 存在のことを言うのだと思う。 さあ、後は私の仕事だ。感慨にふける時間はない。これから殺す相手が元は愛した女性の弟だったことなんて、今考える ことではない。そもそも、もうそんな姿は見る影もないのだし。 満天の星空を背景に磔になった哀れな悪魔へと、この右手をかざす。無言で行こうかと思ったが、やっぱりやめよう。締ま らない。 「心音玩弄【フェイタル・スクリーマー】、発動」 詠唱。同時に、視界はモノクロに反転する。その中に、強靭な悪魔の胸元の、規則的に拍動する心臓だけが赤々と輝いていた。 それがある限り、どれだけ強靭な体を持とうと。どれだけ硬い骨格を持とうと。この能力には抗えない。 BPM:1。そう設定して、集中を解く。即死には至らない。だが長くももたない。 抵抗がゆるんだことを感じたのだろう。シルスクとアヤメさんは固定していたワイヤーを解放し、脱力した悪魔とともに 落っこちてきた。 「ふひゅー。ほんとにやってくれたな」 「空の上超怖いわぁ」 疲れも感じさせず、2人とも生き生きしている。つくづく凄くて怖い人たち。 悪魔はまだ動いていた。もはや満足に立つこともできないのだろうが、死に切ってもいない。 さすがにここまで姿が変貌してしまっては、罪悪感は湧かなかった。これはすでに牧島勇希ではない。牧島勇希だった何 かだ。 だが。彼は理性という制御を外すため、この姿になることを選んだのだ。こうなることがわかっていたのだ。こんな姿に なってまで、私への復讐を成し遂げようとしたのだ。10年間蓄積してきた憎悪と怒りを、こんな形で昇華させたのだ。 凄まじい、凄まじい執念だ。 目の前で、悪魔は最後の力で立ち上がる。それが動物的本能か、それとももっと別の何かか、知る由もない。ゆらりと、 また倒れそうな足取りで、私に近づいてくる。断末魔の「致命の絶叫」がこだまする。直後。腹部から背中へと、感じたこと のない鋭い痛み。目の前には、再び倒れ込みもう動かない悪魔。その右腕が。私の腹に。深々と。突き刺さって。 ◆ ◆ ◆ 「……尖崎くん。君まだ入院してたんだね。しかも相部屋とか」 「いやいやいやいやお恥ずかしい限りですようふふう。ドクトルJ主任も随分派手にお怪我されたようじゃありませんかあ」 「うん、まあね。あれ、尖崎くんだいぶ痩せたね」 「いやいやいやいやお恥ずかしい限りですようふふう。入院ついでに痩せなさいなんて言われてロクなもん食べてないもんで すからああはあは。大きなのっぽのお世話ってもんですう」 随分肉分が落ちて普通体型になりつつある尖崎くん(誰かわからない? まあそれならそれでいいや)のかなり解読不能 な台詞を左耳で聞きつつ、病室の白い天井を見上げた。まあ寝ているのだから見上げるまでもなく自然とそこに目が行く。 なぜ当然のように生き延びているばかりか、のっけからくだらない無駄話なんかして登場しているのか、という声が聞こえ てきそうだが、それは的外れだと言わせてもらいたい。なぜなら私にも今のところさっぱりわからないからだ。目を覚まし た時には、この病院のこの病室のこのベッドの上だった。 あの日から5日が経っているらしい。全て終わった、のだろう。終わりの記憶が曖昧すぎて、その実感さえあやふやだ。 「痛つ!」 それでも、腹部に残るこの痛みこそが、何よりの証拠なのだ。私は確かにあの場にいて。牧島という男は死んで。私たち の因縁は、そこで断ち切られた。この痛みは、あの男が最後まで持ち続けた執念。その恨みのこもった一撃だった。傷が治っ てもこの痛みは生涯忘れることはないだろう。 本当は彼には言わなければいけないことがあった。彼が執拗に私を追わなければ、私は10年前の真実をきっと永遠に 知ることはなかっただろう。逃げ続け、避け続けていたのだから。 妻の死の真相を知り、今自分の命を大事に思うこんな気持ちになれたのは、彼のおかげと言ってもいいのかもしれない。 私の願いが実はとうの昔から叶っていたことに気付けたのもそうだ。 だから、ありがとう。そう言いたい。身勝手なのはわかっている。それでも言わせてもらう。 そしてもう一人。全て終わった今だからこそ、言わなければならない人がいる。 ずっと勘違いをしていた。遠くに行ってしまったと思っていた。いつも誰よりもそばにいたのにな。知らなくてごめんな。 「美希、ありがとう。俺は今、少しだけ幸せだ」 おわり 登場キャラクター ドクトルJ 比留間慎也 上へ
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知床がいなくなって集中が切れたのか全身の力が一気に抜けその場に膝をつく。 それを見て先程の黒人アフロが急いで駆け寄って来た。 「大丈夫でござるか!?さあ、これを・・・!」 「・・・ひよこ・・・まんじゅう?」 「さあ、早く食べるでござる!」 何故今この状況でひよこまんじゅうを食べなくてはいけないのか?と思ったが彼の気迫に負けて仕方なくそれを頬張る。 「・・・あむ、もぐもぐ。・・・!!?」 その時刹那の体に異変が起きた。先程の戦闘の疲労、背中の痛みが無くなったのだ。よく見れば傷が塞がっている。 「ありがとうございました!私は桜咲刹那という者です。」 「拙者は『ドナルド・ドナテロウズ』。みんな“ドナドナ”と呼ぶでござるよ。」 「 ではドナドナさん。さっきのひよこまんじゅうはいったい?」 「食べると元気になあるでござるよ。拙者も怪我したりすると大根やそこら辺のキノコを食べるでござる。」 「へ、へぇ・・・そ、そうなんですか・・・。」 「それとたまに毒キノコがあるから注意するでござるよ。」 「はぁ・・・。気を付けます。(ゲームみたいだな・・・。)」 超が何故こんなゲームみたいな設定を作ったのか(本当にゲームの中にいるとは知らない)考えてると店の中から声がした。 「あ、あのぉ・・・本当にありがとうございます。」 「いえ、そんな事ないです。それよりお怪我はありませんか?」 「はい。おかげ様で。」 すずは眩しい程の笑顔で答えた。その笑顔につい見とれてしまう刹那だった。 (って何を見とれてるんだ私は!わ、私にはお嬢様という人が・・・ってそういう問題では・・・!) やはり刹那にはそっちの気があるのだろうか、とにかくテンパっていた。 そこに外国人特有のオーバーリアクションでドナドナが話し掛けてきた。 「それにしても強いでござるな!あの知床に勝つなんて!是非今後もすずさんを助けてやってほしいでござる!」 「ちょっとドナドナさん!」 「別にいいですよ。困った事があったら相談してください。」 「そうですか・・・。あ!じゃあお礼に何か食べてってください。今片付けますからちょっと待っててください。」 「あ、手伝いますよ。」 「拙者も手伝うでござる!」 三人が協力して片付けたので数十分で終わった。ご飯を食べながら刹那はこの六骨峠や宿場の状態、 そして地図を見せてもらい周辺の地形などを把握した。そしてしばしの雑談の後ドナドナは家に帰っていった。 「そういえばドナドナさんてどこに住んでるんですか?」 「確か橋の下に住んでると聞きましたけど・・・。」 それってホームレスでは?と思う刹那だった。 空が暁に染まってゆく。この先刹那に待ち受けているものは?それは誰にもわからない。 第五話へ
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by人生オワリ?(長屋) 私は、なぜこんな所にいるのだろう。 息が切れている。そんな時間はないとわかりつつもついつい腕時計に目が泳いでしまう。 12時過ぎ。どうして私はこんな時間に、こんな真っ暗な路地を全速力で走っているの? 後ろからも足音が聞こえる。しかもそれは、だんだんと逃げる私に近づいてくるように聞こえる。 ああ、そうだった。 この数日の間で私の世界がたくさん動いて、私の脳がそれについて行っていなかった。 思えば最低の行為だった、ほんのちょっとの好奇心で始めた麻薬。 それがやめられなくて、親からの仕送りもみんな麻薬に費やして、バイト代も、貯金も全部麻薬で使い切った。 それでも足りなかったから、私は今日、ヤクザの事務所の金を奪いに行った。 それから? ……そうそう、傑作よね。お金は奪ったんだ。でも、帰るときにちょっと躓いちゃって、大音を立ててしまって、見張りのヤクザ3人が帰ってきた。ナイフを持って。 今私の後ろから追いかけてきてる奴らがそうね。 「おんどりゃあ! 待たんかいゴラァ!!」 最初、私と奴らの距離は10mほど開いていたが、今ではそれもだんだんと縮まりつつある。彼らが馬鹿だったことが唯一の救いだった。さっきから張り上げている無意味な言葉さえ言わず、無言で追いかけていれば、今頃私なんてミンチにされて缶詰工場行きだっただろうから。 死にたくない。今の私は人間のクズ。それはわかってる。麻薬に手を出した原因もそうだったように、私はあの頃に、高校生で、友達に囲まれていた毎日に戻りたい。 だけど、こんな麻薬に手を染めたクズをこなた達が受け入れてくれるはずがないってこともわかってる。だけど、だけど……。 死にたくない……せめて、もう一度みんなの顔を見るまでは……! と、その時。 私の足に、ひんやりとした感触が走った。 それは一瞬のものだったけど、だからこそ私はその一瞬のうちに、その感触の走った部分を見ることができた。 何……これ……? 私のカラダから、見たこともないくらいたくさんの血が出てる。 漫画なんかで見るような大出血ではないが、それでも日常とはかけ離れた量が脚からでてる。 後ろのヤクザがナイフを投げたらしい。それが私の脚にかすめて、こんなに一杯の血が……! 「あ……あああああああああああああ!!!!!!??」 同時に、私も後ろの奴らと同じくらいの馬鹿になった。叫ばずに逃げていれば、もう少し生き延びれたかもしれないのに! その出血量は、私を非現実的な現実の世界に引き戻すだけの恐怖があった。 嫌だ、死にたくない。助けて、死にたくない。こんなところで、死にたくない。 もっと生きたい。人並みの生活なんかいらない。友達なんていらない。 生きたい……! 生きたい! でも、私の後ろから追いかけてる奴らは、今すぐにでもその私の願望を絶とうとしているのだ……! 後ろから聞こえる「ブッ殺ス」という声が、初めて私に恐怖を与えた。 そしてその距離が私の耳にさっきまでよりも多く入ることで、もう私と奴らの距離が3mも離れていないことを知った。 1、ツンデレでカッコいいかがみは突如反撃のアイデアをひらめく 2、仲間が来て助けてくれる 3、逃げられない。現実は非常である なんて下らないことを考えるのも、すでに私が現実逃避を始めているからだろうか。 ごめん、こなた。つかさ。みゆき。みんな……! 卒業する時、私だけが県外の有名国立大学に入った。もうみんなと会おうと思ったら県を2つほどまたがなければならない。 それを哀れと思ってか、あんた達は、私の高校のときのセーラー服にいっぱい落書きしてくれた。私が一人でも退屈しないように、みんなが側にいると感じれるように……! 「ほらみんな! 書いて書いてー!」 「ちょ……こなた! なによそれ! 変なもん描かないでよね!」 「えー? かがみ知らないの? 片翼の鶯。右代官の家紋だよー?」 「おお! 先輩シブいチョイスっすね! じゃあ自分は……」 「あ……あんたら、文字を書きなさいよ文字を!」 「あはは、バルサミコ酢ぅ~」 「お恥ずかしながら……」 それで、みんなにいっぱい落書きされて、楽しく騒いで、麻薬に浸かってほとんどのものを売ったけど、あの制服だけは売ってない。もっとも、あんな変な落書きだらけの制服を買い取ってくれる人がいればだけどね……。 天国に行けば、またみんなの笑顔に会えるのかな……ううん、私はきっと地獄行き。だから、天国で笑ってるこなたや、みんなの中に、私の笑顔はきっと無いんだ……! 「あ……」 私の目からこぼれた一筋の涙が地面に到達するよりも先に、私の体が地面に組みふされる。 追いつかれたのだ。私は重力を横に受け、立ち上がれない。 「嫌……! 嫌ぁ! 助けて!! 誰か助けて!!!」 私は精一杯の抵抗を試みるが、私の上に乗っている男は微塵も動かない。そして、3人のヤクザが私を囲んだ。 「ケッ……手こずらせやがって……おい!」 私の上に乗っている奴は、さっき私の脚にナイフを投げた男のようだった。だから奴はナイフを持っていなかった。 だけど、また別のヤクザがそいつにナイフを渡した。そしてその渡されたナイフを、男は振りかぶった。 「嫌……あ……ああああああああああ!!!!!!!」 全身の力を振り絞って、私はどうにか状況を変えようと思いっきり体をひねる。 すると、今までうつぶせだった私の体が仰向けになった。 だが、だからと言って逃げ出せるはずはなかった。一瞬は地から浮いた男の体も、再び私を上から押さえつけた。 しかも今度はさっきよりも最悪だった。上を向いているから、満月を真っ二つに割っている男のナイフが、はっきりと私の目に見えた……。 「嫌ああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」 今までのどんな声よりも大きく叫んだ。だって、もう私にはそれしかできなかったから。 ごめん、みんな。私はもう死んじゃう。みんなは悲しむのかな? 私の部屋にある大量の注射器を見るまでは……。 そうだよね。きっとそれを見たら、みんな私を軽蔑する。それでみんなは、私を思い出して笑顔を浮かべることはなくなるんだ……。 『そんなわけないでしょ? 馬鹿じゃないの? 私』 誰かの声が、私の中に聞こえる。ううん、それは確かに、私の声。 だけどそれは今の私じゃない。そう、これは、高校生の頃の私。 『あんたねえ、本当にこなた達があんたを軽蔑なんかすると思ってんの? だとしたら、それはこなた達に対する軽蔑もいいところね』 そして、思い出した。走馬灯かもしれないけど、高校生だった頃の私の毎日を……。 みんなが笑顔だった。私を含むみんなが。それで、私が家族との喧嘩なんかで、時折笑顔を欠いてしまったことがあった。 でも、そんなときでもこなたは笑ってて、私を励ましてくれたじゃない……! そんな仲間たちを疑うなんて……私はなんて愚かなことをしていたんだろう……。 静止していた時間が動き出した。私の肩口に、物凄い激痛が走る。 涙だらけでぼやけて見えないけど、うっすらと見える視界には、さっきまで恐ろしかったヤクザの形相。 こんな奴なんて、もう恐ろしいものか。こんな痛みなんて、恐ろしいものか! 仲間達を疑ってしまった心の痛みに比べれば、こんな痛みは屁でもない……! だから、深々と凶器を突き刺されても私はもう叫ばない。ただ、ヤクザが全体重を凶器にかけたとき、私の両手を押さえていた部分の体重が一気に軽くなった。 だから私はその隙に両手を動かし、凶器の刺さっている肩口から出ている血をヤクザの目にかけてやった。 「な……何!? なんだこれ!? おい!!」 視界を塞がれ、うろたえながらもヤクザは、私の上から退こうとはしなかった。でも、私の肩口に刺さっている凶器からは手を離していた。 だから私はそれを引っこ抜いて、それで男の腕を切りつけた。 「ぎゃああああああああああああああ!!!!!!!!!!」 1cmほど刃が刺さり、男がついに私の上から退いた。 だから私のその隙に立ち上がろうとした……でも……。 「……え……?」 今度は、本日3度目のあの痛みが、私の背中に走った。 私は手に持っていたナイフを地面に落とし、同時に私の体も地面に崩れ落ちそうになるが、必死にこらえる。 「舐めたマネしてくれるじゃねえか、あ?」 振り返ると、そこには2人のヤクザ。1人はナイフを持っていないが、1人は持っている。今私の背中を刺したナイフを。 「……ぁ……う……」 苦しい。気持ち悪い。意識が遠のく。言いたいことはたくさんあった。 でも、もういいかな。 さっきまでの「死にたくない」っていう気持ちはもう無い。ただ、精一杯頑張ったっていう気持ちだけ。 気持ちよくなんかない。私は背中に刃物を刺されて気持ちのいい人間じゃあない。 でも不思議と、さっきほど気持ち悪くない。 「おご……え……!」 私の目の前にいたヤクザが、突然地面に張り付くように倒れた。 「遅いわよ……馬鹿……」 その男が次に立ち上がるのかがいつになるのかは私もよくわからない。だって、私もよく知らないのだ。こなたの空手の実力なんて、見たこともないから。 「ごめん、かがみ。でも愛の抱擁はあとで……ね」 「……馬鹿……」 こなたの言葉はいつもの茶化したような言葉だったけれど、その声の重みはいつもと全く違った。今放った上段回し蹴りが私には線にしか見えなかったけれど、そのすさまじさはそれを食らった男の惨状からわかる。 私は少し安心して、壁に背中を持たれかけ、座った。 目の前に喧嘩慣れしたヤクザがいるのだ。ナイフは持っていないとは言えだ。 でも、私はもう二度と友達を疑わない。だから、こなたが空手で目の前の男をやっつけてくれることを、今は信じていよう。 男はなにやら叫びながらこなたに突進してくる。繰り出される右拳は、さっきのこなたが繰り出した技のような鍛錬された美しいわざとは異なる。 だからこなたはそれをあっさりと避け、その軌道のまま男の腹にこなたの右拳が突き刺さる。 「……ぅえ……が……あ」 男は体を「く」の字に曲げ、悶絶する。だが、こなたの拳はまだ止まらない。 右手を引っ込めて今度は左。右、左、右、左。何度も連打を繰り返した。 こなたの利き腕は両腕だ。この一瞬のうちに繰り出されるいくつもの打撃のどれもが一撃必殺なのだ。 本当は最初の一撃だけで、男の内臓を破裂させるのには十分のはずだった。それでもこなたの追い討ちは、まるで私を傷つけた男に対する怒りの表れのようで、こんなにも想われている自分を、何だか自慢したい気分になった。 「でも……それもできそうにないわね……」 だんだんと擦れていく視界。もうこなたの姿は見えない。ただ、遠のく意識の中声が聞こえるだけ。 「かがみ!? かがみ! 大丈夫!? 返事してってば……かがみ……かが……」 テレビのスイッチを切ったように、私の意識はプツリと切れた。 そして見えたのは、また高校生の頃の私。 でも今度は卒業の頃のじゃあなくて、入学の頃の。 中学からの幼馴染だった日下部と峰岸との3人で、初めての高校生活の門をくぐろうとしていた。 でも、残念ながらそれはかなわなかった。 下駄箱の門をくぐろうとした瞬間に、後ろから青髪の少女が飛びついてきたからだ。 私は名も知らぬその少女の二人で初めての高校生活の門をヘッドスライディングでくぐってしまった。 少女が言うに、入学生の名簿の写真を見ていたところ、ツリ目でツインテールの私にツンデレ疑惑がかかったらしく、朝早くから門前で待ち伏せしていたらしかった。 最初は、なんだコイツと思った。でも、だんだんと仲良くなっていって、今じゃあすっかり一番の友達だ。 最後の最後に会えてよかった。最初から最後まで、全部の「いままで」をひっくるめて言うよ。 『ありがとう、こなた』 「おーーーい!!! 死亡フラグ立ってるって! かがみー!!」 と、あの世に行こうとしていた魂は、空手家の本気の平手打ちによってこの世に返された。 「あ、起きた」 目を開けたとき視界に入った風景に、私は一瞬だけ呆然としていた。 見たこともない真っ白な天井の正体なんてどうでもいい。でも、今はただ、こなたが私のそばにいてくれることに感謝をしようと思って、私の顔を覗き込んでいたこなたの体に抱きついた。 「わっ……ちょ……か、かがみ!? なな……なにすんのさ、公衆の面前で……」 「……うるさいわね……」 私は、こなたを抱きしめる腕を一層強くした。 「私がこうしたいって言ってるんだから……」 一瞬の沈黙の後、こなたはため息と同時に言う。 「うん……やっぱりかがみは可愛いねぇ……」 しばらく後に売店からみんなが帰ってくるまでの間、私達の時間はずっと止まっていた。 完 おまけ つかさ「おねえちゃん、ただいまー」 みさお「おっす柊ー! ポッキー買ってきたぞー……て、邪魔しちゃ悪かったか?」 かがみ「じゃ……邪魔だなんてとんでもない! ささ、入っていいわよ……」 こなた「むぅ……もういつものかがみなの? 可愛かったのになーデレのかがみ」 かがみ「だ……だれがデレよ!」 こなた「まあ……じゃあかがみのスイッチの切り替えのためにそろそろ教えたほうがいいかなぁ……?」 かがみ「ん? な……なによつかさ。私の顔見ながら笑って」 つかさ「クスクス……え? な……なんのことかな? かな?」 こなた「ぷっ……ククク……」 かがみ「ま さ か」 みさお「ぶわっははははははは!!! 柊ィ! 似合ってるぞー!」 かがみ「やったのは誰!! 全員に等しく拳で教育したげるわ!!」 みゆき「お恥ずかしながら、水性マジックがなかったので油性でやらせていただきました」 あやの「と……とりあえず、顔洗ってくれば……?」 かがみ「言われなくたってそーするわよ!」 まったく、これだからこいつらは……こいつらとの時間は…………。 終わり
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さて、ここで状況を整理してみよう。 俺は風呂に入りたかった。 そして風呂場の前まで来て、電気も消えていて人の気配もないのを確認してガラス戸を開けた。 だが中にいたのは蒸気でもゴキブリでもなくレンさん。 騎士だというレンさんくらいになると気配くらい簡単に消せるのだろうか?暗闇の中でも風呂に入れるくらいだしな。 だが、そこでもう一つ問題が浮上する。何故レンさんは俺の気配に気付いていながら、一言も声を上げなかったのか? 開けたとき既にこちらを向いていたことから、気配に対応できていたことは明白。ひょっとして向こうの国の風呂は混浴が普通なのか? 選択肢A「真面目に弁解する」>咀嚼氏ルートのまま 選択肢B「冗談でごまかす」>ががルートに以降 「えっと、レンさん。落ち着いて聞いてください」 「……死者への手向けだ。一言ぐらい残させてやる」 左手を使ってバスタオルで体を覆い隠しながら、開いている右手で洗面台に立てかけてあった木刀に手を伸ばすレンさん。 顔は無表情のままなのに、僕に向けられたその瞳に映る感情は、煮えたぎるような怒りと、微かに今から死に絶える愚者に対する哀れみが感じられた。 ――モシ ココデ スコシデモ ミスヲ オカシタラ―― 死は免れまい。 いや、死ぬだけならばまだいい。同居三日目の女性が風呂に入ろうとしたところを襲おうとした野獣が、返り討ちにあった末に、磔獄門さらし首―― いや、僕には助けてくれる妹たちや先生が 『兄貴……最低だよ(まるでゴキブリホイホイに捕まっているゴキブリを見るような目で)』 『うう…お兄ちゃんは…そんなことしてないって…信じてるよ……(ならなぜ泣く)』 『君も一応女に興味があったんだな。私に興味がなかったようなのであちらがわの人間かと思っていたが安心したよ(そんな趣味はありません)』 なんだこの三百六十面楚歌は―― 「……この格好は少し寒いんだが――さっさと答えてもらおうか」 液体窒素でもそこまでは冷たくはないだろうと思われるレイさんの声で、僕は辛い空想から更に辛い現実へと引き戻された。 「レンさん……」 「なんだ?」 肝心のところをタオルで隠しているとはいえ、なんでこうも威風堂々としているのか。目のやり場に困った僕は仕方なく目をそらしていた。 なにか、何か言い訳をしないと―― 「てっきり、美優が入っているのかと思って」 どんな言い訳だ、僕。 「どんな言い訳だそれは! お、お前は妹とはいえ女と一緒に湯浴みをするのか……!」 レイさんの目に、わずかながら僕に対する恐怖の色が追加された。 「も、もしかして、レイさんの国にはお風呂という習慣がなかったりしせんか?」 レイさんは眉根を上げ、 「たしかに、湯を張って入るという習慣はない。が、姫に『郷に入り手は郷に従え』といわれている。その地に住むのならその地に合わせろということだろう? それとお前が妹とともに湯浴みをするのとなんの関係があるというのだ!」 「では」ああ、大翔、それは墓穴を更に掘り下げる行為だと思うのだが「お風呂は複数人数で入るということは知っていますか?」 「!! そうなのか? ……確かに、姫はミウと一緒に入っていたな」 と、少し考え込む。ここを逃してはならない。僕は更に畳み掛けるように、 「でしょう? お風呂は一人ではなく、二人で入ることもあるんです。背中を流したり、一人ではできないところをお互いでするんです。『男女関係なく』一緒に入るのです。いいですか。お風呂というのは体を清める場です。それはすなわち、心をも清めるところでもあるということ。そのような場で男女の劣情などは一切関係ありません」 僕はできる限りの真面目な顔で(まあ、恐らくガラス玉のような瞳ではあっただろうが)言い切った。 「そ、そうだったのか……すまない、少し思い違いをしていたようだ」 き、切り抜けた……! 墓穴の底(深さ30km弱)から脱出成功! レンさんは自分の勘違い(勘違いではないのだが)を少し恥じているのか、ばつの悪そうな顔でこちらを見て、 「しかたない……では――ともに入ってもらうおうか? ヒロト殿」 少しだけほほを赤らめ、だが毅然と、そう僕におっしゃられた。 脱出失敗――墓穴はマントルまで到達した。 なぜこんなことになってしまったのだろう。 いや、全ては自分のでまかせのせいなのだけれど。 いつもは広く感じる湯船が、今はとても狭い。そりゃそうだ。日本の一般家庭にある浴槽は男女二人で入るようにできていないのだから。 目の前には、湯船に浸かっているレンさん。そして、同じ湯船に浸かっている僕。 おたがいに身体にタオルを巻いている上、美羽が入れたのであろう入浴剤でお湯が乳白色に濁っているため、お互いに身体を見られることはない。助かったと同時に残念だった。いや、とても助かったヨ。そういうことにしておく。 目を合わせることはなく、なんとなくお互いに湯船の中心を凝視していた。 「……はぁ……」 レンさんには気づかれないようにそっとため息をつく。 ――気まずい。まるで僕と彼女の間に見えない壁があるかのようだ。しかし、実際には壁はない。むしろお互いに触れないほうが難しい。少しでも足を緩めれば相手の足に当たってしまう。 「……ヒロト殿」 「な、なんでございましょうか!」 「何で裏声なんだ?」いぶかしげにこちらを睨んでくるレンさん。「まあいい……それで、ともに入ってどうするのだ? その……互いの身体を洗ったり、するのか?」 なんでもないような顔をしているが、耳まで真っ赤になっている。 「まあ、手の届かない背中などは……」 「くっ……郷に入りては郷に従え郷に入りては郷に従え……」自分に言い聞かせるがごとく、なんども姫に言われた言葉を呟き、「では、先にヒロト殿の背中を洗って…やろう」 「で、では、お願いします……」 ええい。ここまできたらなるようになるまでだ。数時間後のことなど考えるな。そのころ自分が存命している確立は、来週のヂャンプにハンターハンターが載るよりも低い。 僕は身体を洗うべく、ゆっくりと湯船で立ち上がる。 「!! ちょ、待って! 何で立ち上がる!?」 あわてて両手で自分の顔を覆い、抗議の声を上げるレンさん。 「いや、湯船から出ないと身体洗えないですから」 「そういうことは先に言え! 貴様の裸体を見てしまうところだったじゃないか!」 「申し訳ありませんでした。今後気をつけさせていただきますぅ……」 あまりの剣幕に思わず謙譲語が出てしまう僕。 顔を背けて顔を手で隠したままのレンさんを尻目に、僕はそっと湯船を出て浴槽の向かいに設置されているシャワーの前に座る。 何はともあれ、理由はないのだが僕は洗う順番を頭からと決めている。 いつも通りにシャンプーの蓋を押して液を手の上に乗せ、少し両手で泡立ててから洗髪を開始する。 わしわしわしわし―― 僕が髪をかき混ぜる音だけが、浴槽に響く。 いや、微かにだが少し荒いレンさんの吐息が聞こえる。それだけで背後に女性がいるということがはっきりと実感できてしまう。 普段は大剣を常に帯び、勇ましく雄々しくそれでいて凛としたレンさんだが、よく考えれば僕と同い年ぐらいの女の子だ。それに加え、無駄な部分をそぎ落としたようなすらりとした身体。美優のような上から下まで同じようなちくわ体形ではない。全体的に細くとも女性的な曲線のあるプロポーションは数秒しか見ていないのに脳裏に焼きついて離れない。 ……うあ、だめだ、意識したら、理性が……。 「……っ、今しかないか」 唐突に――背後から何かが水の中から飛び出す音と、どこか吹っ切れたような声が聞こえた。 「ちょ、まだ髪を洗っている途中――」 「その状態ならこちらが見えまい。ちょうどいいから、今から背中を洗ってやる」 ひたひたと、足音がこちらに近づいたかと思うと、その足音の主は僕の背後に座り込んだらしい。音と気配から察するに、壁に設置されてある棚から石鹸とタオルを手にとり、泡立てているようだ。 「このぐらいか……? いくぞ」 タオルが背中にやさしく乗せられたかと思った次の瞬間、レンさんは全力で背中を磨き始めた。いや、こそぎ落とし始めた。 「がっ! ぎゃああああああ! いた! 背中なくなる! やめてーッ!!」 この浴室の中にはやすりはなかったはずだ。なのに、なんなんだこの破壊力。すでに背中の皮は無くなっているに違いないと、僕は気が遠くなるほどの痛みの中で確信した。 「よし。終わりだ!」 べちゃんと手に持っていた紙やすり――もとい、アミノ酸織り込みタオルを床に放り投げ、今度は湯船の水を掬い上げ、火が点いているかのような激痛の走る背中に勢いよくお湯をぶちまける。 「アーッ!!!」 美羽曰く肌にいいらしい入浴剤入りのお湯は、火傷を負った肌にはよくないらしい。傷口に粗塩を刷り込むぐらいによく沁みた。 「髪の泡も落としてやらないとな」 「いや、自分でやれま――」 今度は座布団で思いっきり殴られるような衝撃の打ち水を、後頭部に連続で五発いただいた。僕は衝撃波で壁に頭を打ちつけ、半分意識を失いかけた。 「はあ…はあ…はあ…」軽く息が上がっているレンさん。「よし……こんどは、そちらの番だ」 「は、はい?」 水が目に入ってぼやけた視界の中のレンさんは、こちらに胸の高さまでタオルを巻いた背をこちらに向ける。なぜか正座だ。 「……背中、洗うのだろう?」 レンさんは向こうを向いたまま ゆっくりと胴にまとっていたタオルを下ろした。 「くっ……好きに、するがいい」 しばらくの間、僕は何も考えられないまま、目の前に置かれた白磁の彫刻に魅入られていた。 剣士である事など想像できないほど、彼女の体つきは細く、神秘的に美しい――それが手を伸ばせば届く距離にあった。 「早くしろ……」 小さく、つぶやくレンさん。どのような表情をしているのか知るよしもないが、耳が真っ赤になっている。 恐怖半分、喜び半分――僕は先ほどレンさんが投げ捨てたタオルを拾い上げ、洗面器の中で泡(血はついていなかったようだ)を洗い流し、石鹸で再度泡をつける。 そして、彼女の背中に恐る恐るタオルで触れた。 「ひゃぅう」 ――どこからか、とてもかわいらしい嬌声が上がった。 「……続けろ」 レンさんは耳だけでなく、首の辺りまで真っ赤になっていた。 僕は―― 選択肢A「早く終わらせようと、彼女の背中を洗い始めた」 下記へ 選択肢B「本能に任せて後ろから抱きしめた」 未実装・恐らくバットエンド 僕は早く終わらせようと、彼女の背中を洗い始めた。 「っ……ん……ぁ……」 押し殺した声が、浴室に響く。 タオルが背骨の辺りを通過すると、彼女の身体が小さく震える。 「もう少し、強くしていい……やさしくされると、なんか変……」 「わかった」 ごしごしと上のほうから背中を洗ってゆく。 「このぐらいか?」 「ん……そのぐらい……」 タオル越しではあるが、やはり、しなやかでいて少しやわらかい感触だった。あの俊敏さや力強さは何処から生まれるのだろう。 そのさわり心地を後ろめたい気持ちで堪能していると、あっというまに背中は泡だらけになった。 「じゃあ、泡流すよ」 床にタオルを置き、シャワーのノズルを手に取る。 「え? そ、そうか、もう終わりか……」 名残惜しそうに聞こえたのは僕の気のせいだろうか。 僕はシャワーの蛇口を回しながら、 「身体もあらって欲しいの?」 と、冗談っぽく聞いてみた。 「いいの? それじゃ――いや、いい! いらないから!」 「そうか。残念」 僕は苦笑しながら、ちょうどいい温度になったシャワーのお湯を彼女の背中に浴びせる。またたく間に泡は流れ落ち、もとの白い肌が現れた。 「あとは、私ひとりで洗えるから……先にでていろ」 「あ、うん。じゃあお先に」 自分の身体も軽くシャワーで洗い流して、素早く浴室を後にした。 ……どうやら、今夜中にこの世から撤退することは免れたらしい。 僕はダイニングルームで冷蔵庫に入っていた麦茶をコップに注ぎ、一気に仰いだ。 問題は明日、レンさんがお風呂に関して、本当のことを知ってしまった場合だ。 『貴様! 昨晩のことは全て偽りだったのか!』 『ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! ほんとすいませ』 『うるさい! 死ね! 氏ねじゃなくて死ね!』 ――間違いなく、十七分割化決定だ。 二杯目の麦茶を注ぎながら、どうにか寿命を一年ぐらい延ばせないかと考える。 レンさんがお風呂の常識を得た時点で、死が確定するのだから、ようはレンさんがお風呂に関しての情報が入らないようにするしかない。なにもしないままでいると、どの拍子に真実にたどり着いてしまうかわからない。一番の問題は妹たちだろう。 現在の状況を妹たちに伝えて口止めをしてみると―― 『最低』 『最低です……』 《咎人(僕)は死刑執行人(レンさん)に差し出された》 誰がどうもみてもゲームオーバーです。本当にありがとうございました。 まあ、全部自業自得なので、十七分割や縛り首もしかたないのだが……。 はぁ、とため息をつき、麦茶の入ったボトルを冷蔵庫に直す。 「……あがった」 「!!」 そこにはいつもどおりの服装をしたレイさんがいつもどおりの無表情で立っていた。違うところは少しだけ、顔がほてっているぐらいか。 「お風呂上りも、同じ服?」 「ち、違う! 今日来ていたのは脱いで、これは洗濯したものだ。守衛騎士たる者、警護中は基本的に正装でないといけないからな」 ふと、思いついたことを聞いてみる。 「寝るときはどうしてるんだ?」 「? 下着だが?」 さらりと予想外な答えが返ってきた。特別なにも恥ずかしがってないようなので、もしかすると彼女の世界ではそれが当たり前なのかもしれない。 「どうかしたのか? ……まあいい。ところで、お前はいつもこの時間帯に入っているのか?」 「ん? お風呂?」 「そうだ」こくりと頷く。「どうなんだ?」 「まあ、妹たちが結構早めだから、必然的に遅くなるね」 「そうか……ならばしかたないな」 目をそらし、まるで口の中に99%カカオのチョコが入っているかのような苦い顔をしているレンさん。 「なにが?」 「明日もまた頼むぞ」 ……はて。『また頼む』とはいったいわたくしは何を頼まれているのか。 「べ、別に初めて人に洗ってもらって気持ちよかったとかそういうことじゃないからな! ただ……そういう慣習があるのならば仕方があるまい。姫は十時には寝てもらわなくてはならないし、ミウとミユも早く入っているようだし、お前しか私と同じ時間に入れるものはいないようだしな。百歩譲って――いや、万歩譲って妥協する」 心なしか、お風呂上りのときよりも頬の赤みが強くなっているような気がしたが、レンさんの剣幕に押され、僕はこくこうと頷いた。 「わ、わかりました」 「では私は寝る。お前もさっさと寝るがいい」 颯爽ときびすを返すと、レンさんは部屋に戻っていってしまった。 ばたんと、レンさんの部屋のドアがなった時―― 「……明日も?」 僕は事態が更に悪化したことに気づいた。
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「さぁて、ちょっくら失礼」 佐助が謙信を横向きに抱き上げて、湯の中を歩いて信玄の元へ向かう。 湯船の縁に座っている信玄の両腿の上に、まずは股間が合わさらぬように 謙信を跨らせる。向き合った信玄と謙信の後頭部に佐助が手を添え、 その手にぐっと力を込めて 「やーれ、おまっとさんでしたっと」 ふたりの口を合わせる。 「はんんっ…」 「んふ…」 唇を重ねるなんて生易しいものではない、ふたりの唇は少しのすき間も空かぬように ぴったりと貼り付けられる。力が強すぎて互いの鼻まであたって潰れてしまいそうである。 首の根から後頭部を押さえ付けられてしまっているので、さすがのふたりといえども、 この強すぎる口付けからは逃れられない。 口を強く塞がれて鼻でしか息が出来ないので、ふたりはなんとか顔を斜めに倒すが、 荒くなっていく鼻息がお互いの顔にかかってしまう。 (ああぁ…しんげん、あなたのいきが…あつくて…とけそう…) (おヌシも…息を荒くして…熱くなっておるの……謙信…) 相手が興奮していると思うと、自分の体からも熱さを感じてくる。くふー、くふー、と 呼吸の調子が重なり合い、見つめ合うふたりの目が熱っぽく潤んでくる。 (あぁぁ…いーぃ感じだねぇ…) 佐助はふたりの頭を強く押し合わせたまま、とろけていく表情を羨ましそうに見入る。 ふたりがうっとりしている間に、かすがが信玄を後ろ手にして、近くにあった手拭いで 両手首を縛る。 そのまま背中に密着して自分の腕を前に回し、信玄の男根の根本を掴む。 かすがの動きを確認すると、佐助はふたりの頭から一旦手を離して、謙信の両脚の 付け根を掴んで持ち上げる。 「ぷは…」 かすがが信玄の男根の先端を上向きに固定し、佐助が狙いを定めて謙信の体から 手を離す。謙信の中にもの凄い勢いで信玄の肉棒が突き刺さる。 「うわぁっ!」 「うおっ!」 ふたりの主達は前触れも無しに突然やってきた衝撃に驚いて素っ頓狂な声を上げ、 背を弓なりに反らせる。 満ち溢れた互いの愛液のおかげで潤滑の良さは申し分無い。だが、肉棒と膣穴の 大きさが違いすぎるのと、謙信自身の軽さのせいで、膣口が信玄の男根の付け根に 届く前に挿入が止まってしまった。 かすがは男根から手を離し、謙信の腰をぐいぐいと左右にひねって深くまでねじ込む。 「き…あ…ぁっ…かすがっ…なにを…するの、ですっ……」 「ああぁぁ…早くおふたりの全てを…満たして差し上げたくて…!」 「あぐっ…ごういん、すぎますよっ……あっ、ああっ!」 謙信の言い分などお構いなしに、とにかく腰をぐっぐっと押して根本まで沈めようとする かすが。更に佐助が謙信の背と腰に手をあてて前方に体重をかける。 「へぇ…なんとか入っちゃうもんだねぇ。もうちょっといけそう……んっ、と」 「ひあぁ!…つよすぎ…る…っ…」 謙信は、信玄の巨大な一物で貫かれたまま、内側からこみ上がってくる容赦ない 痛みに耐える。 「ああっ…く…」 しかし、初めて貫かれた時と違って、この痛みというのは謙信にとって苦痛ばかりを もたらすものではない。この、力一杯押し広げられて裂かれてしまうかという程のキツい 手応えがあるからこそ、確かに信玄と一体になっているという充足感を得られる。 (わたくしのなかに、あなたさまが……ああぁ、しんげんっ!) 武田軍×上杉軍24
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雨の中、私はこなちゃんの家に向かって自転車をこぎ続ける。 おでこにまとわりつく髪、濡れる服。 そのどれもが気持ち悪い。 でも、その存在よりももっと許せないもの。 私のもっと許せないもの。 それを殺すために私は駆ける。 こなちゃんの家まではもう少し。 こなちゃんが死ぬまで、もう少し。 「うおっ、だ、大丈夫、つかさ。そんなびしょ濡れで」 玄関に出てきた私を、こなちゃんは驚きの表情で出迎えた。 ふふふ、何驚いているの? そんなものよりも、自分の命の心配をしたほうがいいんじゃないの。 家の奥からもってきたバスタオルで私の頭をごしごし拭くこなちゃん。 そんなことしても、お姉ちゃんは見ていないんだよ? ポイント稼ごうとしたって、無駄なのに。 「用事もいろいろあると思うけれど、このままじゃ風邪引いちゃうし、 とりあえずお風呂入った方がいいよ。今日は私以外誰もいないから大丈夫だしさ」 へぇ、それは好都合だね、こなちゃん。 ここでこなちゃんを殺しても、明日の朝まで誰にも見つからない。 誰にも見取られず、一人で死んでいくなんてこなちゃんにお似合いだ。 こなちゃんは私に背を向けて、お風呂の湯温を操作している。 鬱陶しいほど長い髪の毛が、向こうでわさわさと揺れている。 まったく隙だらけ。自分を殺そうとしている殺人鬼がすぐ後ろに迫っているというのに。 一歩、二歩、足音を殺してこなちゃんの後ろに忍び寄る。 三歩、四歩、鞄に隠していた出刃包丁を取り出す。 五歩、六歩、包丁をこなちゃんの背中に向けて振り上げ…… 「そういえばつかさ、一体何のよ……」 その後に言葉は続かない。 ごふっ、と空気の漏れる音とともに、こなちゃんの口からあふれ出た血が床に広がる。 綺麗な赤が床を染める。 やった、やったよお姉ちゃん。 ついに邪魔者がいなくなった。私からお姉ちゃんを奪う邪魔者が。 こなちゃんがいなくなってすぐはとっても悲しいかもしれないけれど、 でも、私が癒してあげる。 きっと後になったら、こなちゃんがいなくなってよかったと思えるようになるから。 こなちゃんの体が力を失って床に倒れこむ。 ぬるっとした血に手が滑って、出刃包丁が手から離れる。 背中に出刃包丁を突き刺したまま、こなちゃんは床に横たわった。 「ごほっ……なんで、どうして……つかさ」 信じられないものを見るような目でこちらを見るこなちゃん。 私はゴミ虫のように這い蹲るこなちゃんを見下ろす。 まだ、気づいていなかったの? 私がこんなに傷ついていたのにしらんぷりなの? 「こなちゃんは私の大切なお姉ちゃんをとっちゃったんだよ。 こなちゃんより私のほうがお姉ちゃんと長い間一緒にいるのに、 こなちゃんより私のほうがお姉ちゃんの事をいっぱい知ってるのに、 こなちゃんより私のほうがお姉ちゃんの事を長く想ってるのに、 私のたった一人の、一緒に生まれたお姉ちゃんなのに、 どうしてこなちゃんはそれを奪うの? なんで私より先に「私の」お姉ちゃんを横取りしてるの?」 地面にはいつくばったこなちゃんは、私に蹴飛ばされる度に小さく声を上げる。 何? いまさらかわいそうな振りをして被害者面するの? そうやってかわいそうな振りして、私からお姉ちゃんを奪っていったんだね。 もう、許さない。 こうやって蹴っ飛ばしててもこなちゃんは死なない。 ううん、この程度の痛みで許さない。 そのためには、こなちゃんの背中の出刃包丁を回収しないと。 「このまま死ぬなんてことは許さない。 逃げられないようにあの鬱陶しいほど長い髪で両腕を縛って、 体のあちこちに包丁を削ぎとって、突き刺して、 私と同じだけ苦しんで、生まれてきたことを後悔しながらこなちゃんは死ぬの」 こなちゃんの血でべたべたする包丁の柄をハンカチで包んで、こなちゃんの背中から引き抜く。 くぐもった、押し殺した声と、ごぼっと傷口から沸き立つ鮮血。 ああ、このハンカチお気に入りだったのに。もう血でべたべただよ。 最後までこなちゃんはうっとおしいなぁ。 「わ……私、つかさのことずっとずっと苦しめていたんだね」 何、いまさら命乞い? 死に際になってこなちゃんは血迷った事を呟きだした。 やっぱり、最初に気管を掻き切らなかったのは失敗だったのかな? よし、次は喉を突き刺そう。 それも、すぐ死なない程度に、ずっと苦しめるように加減して。 「私、つかさのこと、大好きだったのに……」 カラン 床に出刃包丁が落ちて、跳ね返る音。 「私、ずっとつかさの家みたいな暖かい家、つかさみたいな家庭的な女の子に憧れていたんだ。 お母さんが死んじゃってから、私お父さんと二人暮らしでさ、 作る料理もお父さんから習ったものばかりだから男の料理みたいで大味でさ、 つかさみたいな女の子らしい、かわいい料理が作ってみたかった」 なに、私、どうしたの? あんなにこなちゃんが憎らしかったんじゃない。 なんで、どうして体が動かないの? 「最初に会ったときのこと、覚えてる? つかさが外国の人に絡まれていると思って助けに入ったときのこと。 それまでにも何度もつかさの事見てた。何度も声かけようとして、 でもつかさは結構人見知りするみたいで声かけづらかったしさ、 だからあの時は、ちょっとだけチャンスって思っちゃった。 私はつかさみたいにかわいらしい事はできないけれど、つかさみたいな女の子を助ける事ができる。 私はお姫様にはなれないけれど、お姫様を守る騎士にならなれる。 でも、本当は私、ずっとつかさを苦しめていたんだね……」 「う、うそ、だってこなちゃんはお姉ちゃんのことばかり見ていた。 私のことなんかいつもほったらかしで、いつもお姉ちゃんのことばっかり見てたのに」 「それは……ごめんね。本当はずっとつかさと話したかった。でも、ついつい話し易いかがみのほうへ逃げちゃってた。 私みたいなのがつかさに話しかけたら、純粋なつかさが壊れちゃいそうで……でも、ごめんね、つかさ。私の……せいだよね」 うそ、うそ、うそ、うそ、うそ、うそ、うそ、うそ、うそ…… 私はその場に崩れ落ちる。 ぬるっとした血の海に膝をつく。こなちゃんの体を抱きかかえる。 背中の傷口からあふれ出る血、血、血…… 「あ、あ゛あ゛あ゛あ゛……」 止まらない、止まらないよ。 なんで、何で私、こんな酷い事したの? 早く、早く助けないとこなちゃんが、こなちゃんが死んじゃう!! 「あはは、つかさが私をぎゅっとしてくれたの、初めてだね。 本当はずっとこうしてほしかった。つかさに、ぎゅっとしてほしかった」 「そ、そんな事言っちゃダメだよ。それってこなちゃんが前に言ってた死亡フラグだよ。 こんな事言ってたら、こなちゃん死んじゃうんだよ!!」 「あはは、つかさ、そこはボケるとこじゃないよ。せっかくの感動のシーンなんだしさ……」 こなちゃんが私の手をぎゅっと握る。 血でべたべたする手。こなちゃんの柔らかい、小さな手。 「でも、つかさに殺されるなら……ちょっとだけ幸せかな」 こなちゃんは弱弱しく微笑む。 こなちゃんの手が力を失って、血の海にべちゃりと崩れ落ちた。 コメントフォーム 名前 コメント 悲劇ではあるが愛があるので欝ではない、俺独自の分類では。 -- 名無しさん (2009-12-31 08 35 10) なんという救われない話w -- 名無しさん (2009-12-22 21 50 44) クリスマス直前なのに、なんという悲劇SSwww -- 名無しさん (2009-12-22 21 37 05) 悲しみの向こうへと〜? たどり着けるなら〜 僕はもういらないよ〜 温もりも明日も〜 -- 名無しさん (2008-01-21 19 34 36) 鬱的な話は好きだけど、泣いたのは初めてだわ… -- 名無しさん (2008-01-12 10 41 32) BGM 悲しみの向こうへ -- 名無しさん (2008-01-10 06 13 00) なんという救いがたい話……何だか泣けてくるぜ -- 名無しさん (2007-09-20 02 55 06)
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登録日:2012/02/24(金) 01 42 23 更新日:2023/06/03 Sat 20 03 27NEW! 所要時間:約 5 分で読めます ▽タグ一覧 グラン サンダー フレイム ボンバーマン ボンバーマンジェッターズ ボンバー四天王 マーメイド ムジョーの子供達 四天王 ボンバー四天王とは、ボンバーマンジェッターズに登場する4人のボンバーマンのこと。 ここでは、アニメ版ジェッターズに登場する四天王について記す。 初登場は13話。 度重なる失敗でバグラーからクビを宣告され、キャラボン星にてキャラボンに追い詰められたムジョーが、あらゆる生物、物体のボンバーマンを造り出す合体ボンバーマン製造マシーンを強力な力を持つキャラボンに対し使用することで誕生した。 共通の特徴としてそれぞれ得意な属性を持ち、自身の属性に合わせたバトルフィールドを出現させることができる。 そして生みの親であるムジョーに対し絶対の忠誠を誓い、父のように慕っている。 ムジョーも彼らのことを我が子のように可愛がっている。 「俺様はフレイムボンバー、一緒に火遊びしよ? ぜぇ♪」 フレイムボンバー CV.渡辺慶 炎属性のボンバーマン。四天王のなかでも子供っぽい性格をしている。 背中にはドラゴンの頭の模様があり、必殺技のフレイムファイヤーボムを繰り出すときは、このドラゴンの頭が実体化して右腕に装着され、そこにボムをセットして発射する。 しろボンと最初に対決した四天王で、ボムスターを得て調子乗っていたしろボンを真正面から叩き潰した。 ちなみにこの回は今までジェッターズに煮え湯を飲まされてきたムジョーが自身の進退を賭けて決闘を仕掛けた回であり、ムジョーの勝利には敵ながら妙なカタルシスがある。 その後も出撃を繰り返し、しろボンのいないジェッターズを返り討ちにした。 ボンバー星で修行したしろボンと再戦し、しろボンの新必殺技バーニングファイヤーボムに敗れた。 必殺技はフレイムファイヤーボム。 ゲーム版では三番手。 アニメ同様戦いを楽しむ子供っぽい性格だが、自分を倒したしろボン(MAX)を讃える潔いところも。 「パパ、怒っちゃ嫌☆」 マーメイドボンバー CV.麻生かほ里 水属性のボンバーマン。四天王の紅一点。ムジョーのことをパパと呼ぶ。 非常に我が儘な性格で、団員達をこき使い、テントに寝たくないという理由でホテルを建てさせたりした。 また金遣いも荒く、ムジョーのクレジットカードを勝手に使って買い物をしたりした。彼女が倒されたあと、ムジョーのもとに20億の請求書が残った。 バーディに一目惚れし、彼に度々アプローチを行なった。 初戦は属性で優るしろボンに圧勝。しかし再戦ではガングとボンゴとの修行で身につけた友情のサンライズサンダーボムに敗れた。 必殺技はスプラッシュウォーターボム。 ゲーム版では一番手。 こちらではセクシーお姉さん路線。吐息混じりの声が悩ましいと評判。 「勝負だ、しろボン!」 グランボンバー CV.金子はりい 土属性のボンバーマン。大柄で岩山のような体つきをしている。 ムジョーのことを親父と読んで慕ってはいるのだが、便秘に効くと言って火薬ご飯を食べさせムジョーを入院させてしまったりとちょっと抜けている。 サンダーボンバーのことも兄貴と呼び慕っているが自身の惚けた性格のためによく叱られている。 ジェッターズを誘き寄せるために罠を張るが、肝心のジェッターズに連絡するのを忘れたり、それどころか渋滞や事故に巻き込まれたのではないかと心配する。 しろボンとは田植えを通じて友情を育み「グランのおじさん」と慕われる。 一時はジェッターズに入ろうとまでするが、サンダーボンバーから彼を信じるムジョーの気持ちを聞いて奮起。 土属性であるが故に、炎属性のファイヤーボムを得意とするしろボンとは相性が悪かったが、自身の弱点を克服する新技のレンガボムを身に付けて彼に挑む。 だが、レンガボムは防御技であるが故に攻め手に欠け、初めのうちは対抗できたものの徐々にじり貧に陥る。 最期はヒゲヒゲ団として正々堂々と戦って散ることを選び、しろボンに敗れた。 敵ながらその人柄ゆえか人気は高く、彼の最期にしろボンと視聴者は涙した。 必殺技はクレイボムと、防御技レンガボム。 ゲーム版では四番手。 温厚さの欠片も無い乱暴者。 「ようやくわかったよ……散っていった仲間の痛みがなあ!」 サンダーボンバー CV.竹本英史 ボンバー四天王の長兄にしてムジョーの忠臣。 背中にある二つの電極と、雷眉毛が特徴。 個性の強い他の3名に比べて常識人で、誰が出撃するか揉めた時も一人仲間達を仲裁しようとしていた。 若干、真面目が過ぎて天然な面もあり、またムジョーがバーのママといい雰囲気になると必ず彼の邪魔が入る。 ムジョーの失敗を尻目に、手柄を立てていくマックスに疑惑の目を向け、敵視していた。 度々マックスに攻撃を仕掛けようとするが、そのたび背後を取られて冷や汗をかいたり一蹴されたりと、かませ的な扱いを受けることもあった。 ムジョーが左遷されたあとも彼に付き従い、メカードにマックスを除くように嘆願したりとヒゲヒゲ団とムジョーのために尽くした。 ムジョーが彼の幸せを願い、元のキャラボンに戻そうとするとムジョーのもとを脱走。マックスに卑怯者の汚名を覚悟で不意討ちを行い、しろボンに四天王の弔い合戦を挑んだ。 散っていった仲間の痛みを知るため、仲間たちを倒したしろボンの必殺技3連発を受けきり、必殺技のぶつけ合いでも正面からしろボンをねじ伏せ、四天王の長兄に相応しい実力を見せつけた。 しかししろボンにとどめを刺そうとしたところでマックスに不意討ちをやり返され、必殺技を受けて消滅した。 結局、マックスのかませ犬のような形で退場してしまったが、ムジョーへの忠誠を貫き、弟妹たちの敵討ちに挑む彼の姿は、マイティとはまた違う意味でボンバーマンジェッターズ屈指の‘‘兄貴’’だったと言えるだろう。 必殺技はサンダーボルトボムと、フラッシュサンダーボルトボム。 ゲーム版では二番手。 「俺様がかの有名なサンダーボンバー様だ!」とか言っちゃうナルシスト。 追記・修正はムジョーの息子・娘になってからお願いします。 △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] ゲーム版だとかなりキャラが違うんだよね。グランが凶暴だったり、サンダーがナルシストだったり -- 名無しさん (2014-05-19 16 57 31) ボンバーマン4のハンマー、ジェット、レディ、バズーカかと -- 名無しさん (2014-05-19 17 44 17) アニメだと確かやられた後にキャラボンに戻ってムジヨー -- 名無しさん (2014-05-19 19 53 06) を敵視して追っかけ回したんだっけ -- 名無しさん (2014-05-19 19 53 37) マーメイドボンバーかわいすぎ!!!!!!ボム投げる時のフォームが素晴らしすぎる!!!!!!! -- 名無しさん (2014-07-24 03 10 16) アニメはサンダーボンバーがやたら強かったな -- 名無しさん (2015-04-03 00 57 40) ダークビーダ四天王ポジション -- 名無しさん (2022-01-27 23 01 40) 名前 コメント
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18話:愉笑虐猫 森の中の今は使われていない孤児院。 かつては子供達の声が響いていたであろう大広間で、 青い猫獣人の少女井本萌実は支給品である旧式自動拳銃、アストラM902を眺めていた。 予備の弾倉もセットで支給されておりしばらくは武装の面においては心配は無さそうだ、 と、萌実は思う。 「どうしようかなぁ、んふっ、どうしよっかなぁ」 楽しそうな様子、その顔からは恐怖や困惑と言ったものは感じられない。 心の底からこの催しを愉しんでいる――そういった感じである。 「誰か、来ないかなっ。来たらこれで頭ぱーんってしてあげるのにー」 無邪気な口調とは裏腹に発言の内容は物騒極まり無い。 誰が聞いてもそう思うであろう。 彼女は実際に思想がかなり危険な部類に入る。 もっともそれは彼女自身だけの原因では無いのだが。 ◆ (やっと建物見付けて休もうかなと思ったのに、危なそうな女の子がいるぅぅ、最悪だわ……) 青白毛皮の雌人狼、アドレイドは扉の隙間から奥に居る猫少女の様子を伺い落胆していた。 軍事施設跡にて殺し合いをやる気になっている参加者をやり過ごし、 森の中を歩き回って疲弊した末ようやく休めそうな建物を見付け中に侵入したのは良いが、 建物の中にも、「やる気」になっている参加者がいたのだから無理も無い。 いい加減に休みたいと思っていたがとても無理そうだ。 (あれは…「井本萌実」って子かな? ここはやっぱりやり過ごすのが良いわね、銃持ってるっぽいし、逃げよう……) こちらの武装は木製のバット。 身のこなしには自信はあったが流石に銃相手に大立ち回りを演じられる気はしない。 余程腕の立つ者なら銃相手でも剣や槍で突っ込み勝利出来るとは聞くが、 アドレイドはそこまで自信過剰にはなれなかった。 足音を立てないようにそっと扉から離れようとした。 バキッ 「!!」 しかし足元に落ちていたプラスチック製のトレイか何かをうっかり踏み付け派手に音を鳴らしてしまう。 肝が一気に冷却されていくのをアドレイドは感じた。 「……誰かいるの?」 扉の向こうから少女の声と近付いてくる足音が聞こえ、アドレイドの脈拍数が跳ね上がる。 (やばい! やばい! 早く逃げないと!!) 気付かれたのならもはや忍び足の必要は全く無い。 アドレイドは侵入してきた裏口、では無く表玄関の方に向け駆け出した。 間も無く背後で扉が開く音が聞こえた。 「いーたー待ってよー」 ダァン! ダァン! 「うわぁあ!」 楽しそうな声を発しながら銃を発砲してくる少女に恐怖を覚えながら、 アドレイドは必死に玄関口を目指す。 そしてようやく辿り着いた、が、そこに待っていたのは残酷過ぎる現実。 玄関口は表から板で打ち付けられてしまっていた。 「嘘ぉおおおお!!」 そう言えば入ってきた裏口も表から板で打ち付けられていた形跡があった。 誰かが無理矢理剥がしたのだろうが表玄関にその行為は適用しなかったのか。 これなら裏口に向かっておけば良かったとアドレイドは後悔したが最早後の祭り。 「畜生、こうなったら」 ならば自分がその行為を適用してやろう、と、アドレイドが思ったのかどうかは不明だが。 「らあぁああああぁああ!」 少し距離を付け、封鎖された木製の玄関扉に向かってアドレイドは突撃していった。 ガシャアアァアアン!!! 派手な音と共に打ち付けていた板ともども玄関扉は、 アドレイドの体当たりにより吹き飛んだ。 「ぐうぅ!!」 扉やガラス片と共に強か地面に身体を打ち付け、身体中が痛む。 しかしそれに構わず、アドレイドは森の方向に向け再び走り出した。 ダァン! ダァン! ダァン!! 三発の銃声がアドレイドの背後より響く。 「ぐっ…?」 背中から腹部にかけ何かが貫くのをアドレイドは感じた。 弾が当たったのかもしれないが、今はそれを確認するような余裕は無かった。 走る事は出来る。走れる限りあの少女からは逃げなければならない。 「ああぁあああぁあああ!!!」 傷の痛みと恐怖を紛らわすためか、アドレイドはあらん限りの大きな絶叫を発しながら、 雑草に埋もれつつある森の中の道を走って行った。 「……逃がしちゃったかぁ、流石に人狼だね、一発当たっても効かないかぁ」 玄関付近で逃げていく人狼の背中を見詰める猫獣人の少女、井本萌実。 「まあ良いかぁ……まだ他にも沢山いるだろうしね。私も移動しよっかなー」 尚も楽しそうな様子で、萌実は孤児院の中へと戻って行った。 【早朝/D-3孤児院】 【井本萌実】 [状態]健康 [装備]アストラM902(15/20) [持物]基本支給品一式、アストラM902の弾倉(5) [思考・行動] 0:殺し合いを楽しむ。 [備考] ※特に無し。 【早朝/D-3孤児院周辺の森】 【アドレイド】 [状態]背中から腹にかけて貫通銃創 [装備]木製バット [持物]基本支給品一式、カップラーメン詰め合わせ(カップラーメン×8) [思考・行動] 0:自分優先。生き残る。 1:井沢るな、井本萌実を警戒。 [備考] ※特に無し。 ≪キャラ紹介≫ 【井本萌実】 いもと・もえみ 青い猫獣人の少女。バストが大きく幼い顔付きの美少女。 身体能力、生命力、戦闘能力どれを取っても常人離れしている。 軍の兵器開発部による「死体より兵士を生み出す計画」によって生まれた生体兵器の一人で、 小神さくらの後発兵器に当たる。さくらに比べ感情の発露や意志疎通のレベルが高まっているが、性格的に難がある。 ≪支給品紹介≫ 【アストラM902】 井本萌実に支給。予備弾倉5個とセット。 ドイツのマウザーC96をスペインのアストラ社がコピーした自動拳銃。 M902は弾倉を延長し、セミ/フルオート切り替え機能を付けた改良型。 前:獣慾 次:ひとりでいろいろできるかな ゲーム開始 井本萌実 次:You took the best parts of my life 前:より身近なんだ生死 アドレイド 次:You took the best parts of my life
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第十話 斬られた! あたしはそう覚悟して、ぎゅっと目を閉じた。 実際、斬られたと思ったのだ。もちろん、二人組みの男たちもそう思っただろう。だが、それに伴うはずの痛みが、いつまでたってもやってこない。 恐る恐る目を開くと、目の前には、見慣れた背中があった。 宮内だ。 あっさり吹っ飛ばされた後、どうやら全速力で起き上がり、あたしと大男の間に入り込んだらしい。 「琥珀!ぼっとしてんな、どけ!」 大男の振り下ろした刀を、自分の木刀で受け止めながら、必死の声で宮内が叫ぶ。 それを受けて、座り込んでしまっていたあたしは、体勢を立て直して大男と宮内から少し距離をとる。 宮内は視界の隅にあたしがどいたのを確認したのか、半歩後ろに下がりながら…右肩を後ろに退きながら、大男の斬撃を受け流した。 うん、あたしが後ろにいる状態であれやったら、確実にあたしは切れてたね(いろんな意味で) 。 刀を全力で振り下ろしていた大男は、急に標的が…つまり宮内がいなくなったことで、力の行き場を失って体勢を崩す。 その間に、宮内はあたしの傍まで退いた。 「…琥珀」 「うん?」 「木刀で勝てる相手じゃねーな」 「…うん」 真剣なしで、試験を突破しようとしていたあたしたちは、ちょっと甘かったらしい。 「…でも、俺今ので腕痺れた。まかす」 「……しょーがないな」 あたしは、腰に下げていたもう一本の刀…『玉凛』を抜いた。 今度こそ、真剣だ。 他の人はどうか知らないが、あたしにとっては木刀は。 いくら、使い慣れた『凪』であっても、軽すぎるのだ。 実力の半分も出せないと言ってもいい。 それは、物理的な重量が軽すぎるのか。 それとも、『命のやり取りをする』という覚悟が軽すぎるのか。 どっちにしても、あたしにとって『玉凛』を抜くということは、つまり相手の命を取る覚悟を決める、ということだ。 さっき、斬られたと思った一撃で、相手の実力はわかった。 もともと、真剣で向かってくる相手に木刀で相手をしようと思ったのが間違いだったのだ。 大男が、体勢を立て直してあたしに向かってくる。 …あ、宮内のやつ、本当に何歩かひきやがった。 まぁ、いいか。 大男が繰り出す斬撃の軌道は、真剣モードのあたしにとっては、単調なものだった。 その巨躯と、力に任せて刀を振り回すだけの、単調な。 「…おいおい、これに斬られてたら、一生もんの恥だったよ」 そっとひとりごちて、大男の隙を探る。 いや、探るもなにも、隙だらけだった。 「さっきのはまぐれ…かな?」 大男が大きく剣を振り下ろした瞬間。 あたしは、その斬撃を避けた上で、大男の首元に、刀を当てた。 「動けば、斬る」 「………」 あたしが避けるばかりだったからだろう、調子よく刀を振り回していた大男は、初めて動きを止めた。 作者コメント 作者コメント無し 第九話へ 第十一話へ